[文学] 北と南
ニック・ケイヴの小説 『神の御使い』 のプロローグに、 《谷の全長を南から北へ、 カラスとともに飛んでゆくわれわれは…》 というくだりがある。 小説の中で 《われわれ》 という記述に出会えば、 われわれ読者はその 《われわれ》 に自分を重ねて、 《南から北へ》 と飛ぶ自分の視線で空から地上を見下ろすだろう。 ところで人は、 逆に北から南へ飛ぶ自分を設定して、 地上の光景をイメージできるか。 やってみな、 むずかしいから。地理に関するわれわれのイメージ喚起力は、 「北=上」 という認識にしばられている。 たぶん、 ニック・ケイヴでさえも。
