[文学] できたオモチはピンク色
そういうことはあるはずだと思っていたから、 飛び上がるほど驚いたわけではないが、 実際に出会えば、 やはり驚く。 しりあがり寿 『小説 真夜中の弥次さん喜多さん』。 ひとつは、 ニヒリズムの深化ということ。江戸の師走。 瓦版屋がニュースをがなりたてる。
「本所深川のボランティアのモチツキ大会で死人が出たよ。 なんとモチをコネていた老母の頭を息子がキネで一撃だあ。 あわれ母上の頭はグッシャリ真っ赤ッカ、 できたオモチはピンク色。 さあ詳しくはこいつを読んどくれっ」
口上に耳をかたむける人々は江戸の暮を彩るのにちょうどいいくらいの惨事だとピンクのオモチに思いをはせていた。
口上に耳をかたむける人々は江戸の暮を彩るのにちょうどいいくらいの惨事だとピンクのオモチに思いをはせていた。
昔のニヒリズムには、 それなりの構えがあって、 気取っていたり、 偽悪的であったり、 意思的な反社会性の宣言であったり、 自身の崇高性の表明であったり、 無力感への積極的な陶酔だったりしたのだが、 ここにはそんな構えはない。 江戸の町はただたんにニヒルなのであって、 できたオモチはピンク色、 人々の感情を傷つけるほどではない手ごろな惨事にすぎない。
80年代、 90年代を通じて、 ニヒリズムは着実に深化していたのだろう。 … (以下削除、5月21日)
