[文学] 歴史の現場
『舞踏会へ向かう三人の農夫』、続き、「第十七章 占領下の国」。ドイツ軍の兵士が、ベルギー人の老夫婦にライフルを突きつける。── いいから行け。うちへ帰って、戸じまりをして、寝床に入れ。何が起きているのかお前らにはわかっておらんのだ。これは歴史だぞ。
その言葉をアドルフが発音したとたん、老夫婦は恐怖に包まれてあたりを見回した。かくも抽象的なものがこのプチ・ロワの町なかで起きうるということの方が、アドルフのライフルや、そこらじゅうで降っている投射物以上に、二人にとっては恐ろしかったのである。
その言葉をアドルフが発音したとたん、老夫婦は恐怖に包まれてあたりを見回した。かくも抽象的なものがこのプチ・ロワの町なかで起きうるということの方が、アドルフのライフルや、そこらじゅうで降っている投射物以上に、二人にとっては恐ろしかったのである。
パワーズを読みながらフォーサイスのことを思ったのは、そう的外れなことではなかったかもしれない。どちらも、事態の意味をあっさり説明する術にたけている。それにしても、兵士アドルフは、どうしてこんな認識を表明できたか。彼のプロフィールについても、読み逃してきたか。
ウンベルト・エーコの 『薔薇の名前』 が、自分を知的だと思っている人向けの娯楽だったとすれば、『舞踏会へ ──』はより上質な層に向けたもの。

