[浦島詩抄] おいてけぼり
たしか本所のほうだったと思うが
おいてけぼり
というのがあって
貧乏御家人か何かが
日がな一日
釣り糸を垂れ
日の暮れかかるころ
ようやく一匹
釣り上げた鮒を
魚篭 (びく) に落として
帰りかけると
「おいてけ」
ぎくりとあたりを見まわすと
また
「おいてけ」
おいてけよ、お前
おいてけ、お前を
たしか本所のあたりだと
いうなら
きっとここは
本所あたりの
濠の底にちがいない
どんより淀んだ水底にも
暮れ方の赤茶けた光は
鈍く届いて
なにがしかの
寂寥は漂うのである
おいてけよ、お前
おいてけ、お前を
